市街化調整区域で家を建てるのには開発許可が必要です。
しかし、農林漁業を営んでいる方が建てる家については例外的に許可不要とされています。
許可を不要として建てられた農林漁業を営む人の家は”農家住宅”と呼ばれます。
農家住宅を売買した際、次に買った人は家に住むことが合法的に出来ない問題が生じます。
さらに再建築等も不可となる=不動産としての価値が大きく下がるという問題もあります。
これらをクリアするには用途変更を行い、許可を受ける以外に方法はありません。
農家住宅とは
農家住宅の法律上の根拠は都市計画法29条1項2号
農家住宅とは、下記法律を根拠にして建っているかどうかで判断します。
農家住宅と似て非なるものに、分家住宅がありますが、これとの違いは別記事でまとめます。
(開発行為の許可)
第二十九条 二 市街化調整区域、区域区分が定められていない都市計画区域又は準都市計画区域内において行う開発行為で、農業、林業若しくは漁業の用に供する政令で定める建築物又はこれらの業務を営む者の居住の用に供する建築物の建築の用に供する目的で行うもの
わかりやすく解説:市街化調整区域で家を建てるには開発許可が必要です。
しかし、農業・林業・漁業を仕事としている人は許可不要で農林漁業のための建築物と自宅を建てることができます。
農家住宅のメリット
市街化調整区域では、開発許可が出ない限り、自宅を建てることは出来ません。
しかし、農家住宅として認められることによって「通常は建築することが不可能な土地に家を建てることができる。しかも開発許可不要。」というメリットを受けられます。
イメージ的には農家を営む親御さんの後を継ぐお子さんが建てる時などにピッタリの方法です。
農家住宅における農林漁業の定義
農業を仕事にしているって言っても、小さな畑で野菜を作っている程度でもOKなのかな?と。
これについては以下のように基準があります。
農業に従事している人の定義は埼玉県都市整備部の基準ですと以下のようになります。
・耕地面積が10アール(=約1,000㎡)以上の規模、または生産物の年間の総販売額が15万円以上あること。
林業に従事している人の定義は埼玉県の基準ですと以下のようになります。
・1ヘクタール(=約10,000㎡)以上の山林で林業を営む人、または生産物の年間の総販売額が15万円以上であること。
漁業に従事している人の定義は埼玉県の基準ですと以下のようになります。
・生産物の年間の総販売額が15万円以上であること。
以上のようになります。
農業の規模としては、生計を立てるには1000㎡以上というのは決して大きいものではありません。
いわゆる兼業農家でも許可不要で自宅を作ることは可能です。
農林漁業を営む人は世帯全員である必要はなく、1人いれば可となるのも覚えておきたいポイントです。
農家住宅を建築するには
加えて以下のような条件がついてくることが一般的です。
・年間60日以上農業に従事していること
・農業従事証明を提出できること。→農家証明書とも言われます。
参考リンク:大阪狭山市 農業従事証明書
小森谷
・自宅を持っていないこと→すでに自宅がある人は対象となりません。分家住宅の性格も併せ持っていることになります。
・建設予定地と土地が近接していること→自宅から遠いところに農地があるのでは、許可は難しいということです。
上記を証明するための書類として、いわゆる60条証明を取得する必要があります。
自力でやるのは難しいため、農家住宅に詳しい行政書士に依頼するのが正解かと思います。
農家住宅の土地面積
農家住宅の面積は1000㎡が限度になっています。これはどこの自治体も同じ基準です。
※比較:分家住宅は500㎡を限度にされている
納屋や農機具がある農家住宅の方が広い土地を宅地化することが認められているという認識でOKです。
農家住宅を売買するには
上記のような方法で農家住宅を建てた場合、同時に大きな制限を負うことになります。
通常は建てられない土地に家を建てられたというメリットもある分、デメリットもあるわけです。
農家住宅の場合ですと「その家はAさんの農家住宅」という風に解釈されるようになります。
・誰が住むか→Aさん
この誰が住むのかが問われる家のことを、”属人性”に基づく住宅と言います。農家住宅はまさにこれです。
・何のために出来た家か→Aさんが農業を営むために出来た家(=農家住宅)
これらが市役所等の自治体にデータとして残り、売買に制限を生みます。
AさんがBさんに自治体等の許可無く家を売った場合、Bさんは都市計画法43条に違反となってしまい合法的に家に住むことができなくなります。
これはAさんの家が農家をやるAさんのための住宅であって、Bさんが住むことは想定されていないためです。
通報等で違反状態が分かれば、都市計画法に基づいて退去等の厳しい命令が出ます。
いつそんな事を言われるか分からないのに、買う人はいません。
さらに、許可無く売買すると再建築についても困難となります。
すばる
みみ
法律に違反している状態で自治体は再建築を許すことはありません。
そして自治体が再建築時に必須である建築確認申請に関わっている以上、これから免れることはできません。
この事実については、下記のような自治体の記述でもご理解頂けるかと思います。
市街化調整区域では、法律で定められたもの以外は原則として建築できません。都市計画法上適法と認められないものは、当然に建築確認を申請することもできません。
よって、農家住宅を売買するには用途変更と言われる許可を取らなければなりません。
農家住宅の用途変更
農家住宅を元々のオーナーであるAさんからBさんに売買して適法に使えるようにするには、用途変更という許可が必要です。
この審査基準は自治体ごとにルールが異なりますが、方向性は似ています。
下記のような基準に該当すれば、許可が出る可能性があります。
- 建築後、10~20年程度の年数を経過している場合
- 建築後、規定の年数を経過した後にAさんが破産手続き開始の決定がされた場合
- 建築後、規定の年数を経過した後にAさんが生活の困窮・病気・高齢化・死亡等などのやむを得ない事情が生じた場合
こういった場合にのみ、用途変更を受け付ける可能性があります。
最もスムーズに許可が取れる可能性があるのは、必要な年数(10~20年)を経過している場合でしょうか。
※埼玉県庁の審査基準ですと20年が基準となります。
なので、売買する前に必ず自治体に確認することが重要です。
そして重要なポイントは、Aさんが適法に今まで暮らしていることが前提であることです。
例えば、過去にAさんが農地を許可無く転用して駐車場にしていたとか、建築確認を取らずに建築行為をしていたなどが分かれば、許可は出ないと考えられます。
つまり、何か自治体から見て問題があることが判明した場合はそれを是正しない限り許可は出ません。
農家住宅の相続
農家を営んでいた父が亡くなり、農業をやらない長男が家を相続した場合に問題は起きるのでしょうか?
という相談を最近受けました。
これは様々なケースが考えられるのですが、埼玉県庁に確認したところ「用途変更の許可をもらう必要はないと思われる」とのことでした。
なぜかと言うと、長男の方は亡くなったお父様から農地を相続しているから、自治体から見ると長男の方は農家とも見れるからです。
実際、農地法によって長男の方は農地の適切な利用・維持管理を行うことになっていますからね。(ここら辺は建前の世界なのかもしれませんね)
まとめ
今回は”農家住宅とは。知らないと大きなトラブルになる売買の注意点、用途変更まで分かりやすく解説します。”というテーマで解説しました。
市街化調整区域では厳しく建築行為が制限されていますが、農家住宅は例外中の例外として開発許可さえも不要で建築可能です。
これは大きなメリットにもなりますが、それと同じかそれ以上のデメリットも生む可能性があるのが農家住宅です。
今後も永代にわたって農家を継ぐご家庭なら安心ですが、そうでない場合はこの記事を機会に「うちの家は農家住宅として建てられているんだろうか?単なる分家住宅なんだろうか?」などを調べてみるといいかもしれません。
調べてみると、農家住宅としてではなく別の許可で建てられた家であることも多いです。
こうした開発許可の経緯によって売却物件として売りに出す場合や貸す時に大きな差がある点も、市街化調整区域では要注意です。