工場を建てるとすれば、沢山の人が住んでいる街の中心部に建てるわけにも行きません。
そこであらかじめ指定されたエリア内限定で、市街化調整区域にも工場を建てることが許可されています。
また、長年にわたり市街化調整区域に住んでいる人に限定して、小規模の工場を新設するのは可能です。
工場建設の根拠となる法律:埼玉県の場合
県条例第6条
一 法第18条の2第1項に規定する市町村の都市計画に関する基本的な方針に基づいて市町村が策定した土地利用に関する計画に即して知事が市町村長の申出により予定建築物の用途に限り指定した土地の区域において、当該指定に適合した建築物を建築する目的で行う開発行為
これは何を言っているかといえば、下記のようなイメージです。
市町村が「市街化調整区域内に、製造業系の工場を建築許可したい」と知事に伝えます。
それを知事が「わかりました。ここの市街化調整区域エリアなら製造業の工場を建設許可しましょう」としたエリア内でなら、製造業という用途に限って工場を建てることができることになります。
※実際には製造業の工場だけではありません、様々な用途が想定されます。
(条例第6条第1項第1号の規定による指定の基準)
第3条四 当該申出に係る予定建築物の用途が次に掲げるもののいずれかであること。
イ 流通業務施設
ロ 工業施設
ハ 商業施設であって次に掲げる用途のいずれかに該当するもの(当該用途に供す
る部分の床面積の合計が1万平方メートル以下のものに限る。)
(1) 小売業の店舗(大規模小売店舗立地法(平成10年法律第91号)第2条
第1項に規定する店舗面積の合計が3000平方メートル未満のものに限
る。(3)において同じ。)
(2) 飲食店
(3) 小売業の店舗及び飲食店の用途のみを併せ有する施設
例外的に市街化調整区域でも建てて良いものの中に、工業施設とちゃんと書いてありますね。
これは当然のことながら、市街化調整区域内のどこでも建てて良いものではなく、市町村が環境や各地域の事情等の配慮・熟慮を重ねて決まったエリア内のみでのお話になります。
よって、そのエリア内でしたら工場が建てられることになるわけですね。
他にも物流倉庫などが建てられるわけですが、工場が立地可能なエリア内には工場以外は基本的に許可されないように区分けされています。
例えば、埼玉県久喜市の場合ですと、久喜市高柳というエリアの一部を”製造業”と”自然科学研究所”という用途に絞って建築可能としています。
すばる
小森谷
なぜ市街化調整区域において、工場が建てられるのか
これはまず、規模の問題が挙げられそうです。
大手メーカーの工場などは、とてつもない広さになります。
当然、市街化区域内にて現実的に立地できるようなものではありません。
市街化調整区域のように広い土地がなければ、工場を建てることは実質不可能です。
さらに言えば、市町村が総合的に判断して「このエリアなら問題ないだろう」としたエリアに限定されますから、市街化調整区域で問題となる”市街化を促進する行為”にもならないとされます。
これらの理由から、都市計画法34条12号において建築可能とする根拠が成立するのですね。
十二 開発区域の周辺における市街化を促進するおそれがないと認められ、かつ、市街化区域内において行うことが困難又は著しく不適当と認められる開発行為として、政令で定める基準に従い、都道府県の条例で区域、目的又は予定建築物等の用途を限り定められたもの
というわけでして、市街化調整区域には市町村があらかじめ指定したエリア内においてのみ、限定された用途(製造業のみとか)の工場が建てられるということになります。
産業系12号という言葉は都市計画法34条12号から来ている
上記のような限定された土地で工業施設が立地可能となっているエリアを、俗称として”産業系12号”などと呼ぶ人もいます。
これは上記で解説した都市計画法34条12号から、産業系の建物も建てることができる条例が作られているために、こう言った呼び名が出来たものと思われます。
小森谷
みみ
市街化調整区域で産業系の地区計画がある市町村も候補
こちらをご覧ください。
左半分を見て頂ければわかる通り、市街化調整区域においても地区計画を策定することで工場が建てられる余地があります。
これは都市計画法34条10号を根拠にして、可能となっています。
地区計画に定める内容に沿うような工場で無ければなりませんが、これに適合する場合は建築できるということ。
このように自治体は様々な工場誘致の手札を持っていて、どの手札を使うかは各自治体で違うわけです。
進出しようと思う市町村で、市街化調整区域に工場が建てられそうな地区計画を設けているかどうかは、チェックすべきでしょう。
20年以上、市街化調整区域に住んでいる人は自分の工場を建てられる
三 20年以上居住する市街化調整区域の土地又はその近隣において、自己の業務の用に供する小規模な建築物であって規則で定めるものを建築する目的で行う開発行為
出典:埼玉県都市計画法に基づく開発許可等の基準に関する条例 第6条第1項3号
建築できるもの:自己業務用の建物(工場も含む)
長年住んでいる市街化調整区域で工場を建てようとしている人は、これを根拠に建築可能かを視野に入れることができます。
ただし、以下のように小規模なものでなくてはならないルールがあります。
第4条 条例第6条第1項第3号の規則で定める建築物は、次に掲げるものとする。
一 工場でその延べ床面積が100平方メートル以内のもの(作業場の床面積の合計が50平方メートル以内のものに限る。)二 事務所でその延べ床面積が100平方メートル以内のもの
出典:埼玉県都市計画法に基づく開発許可等の基準に関する条例施行規則
よって、こちらを根拠にして建築する場合は作業場の床面積が50㎡以内と小規模の工場になります。
それでも成立しそうな商売をするのであれば、建築することを考えても良いかもしれません。
これは生活の本拠を市街化調整区域に長く置いている人だからこそ認められるものなので、例外的に許可されるという認識で間違いありません。
また、市街化調整区域にある自宅から50メートル以内にある土地でなければ工場を建てることができません。
自宅と地続きとなっているような土地に建築するのであれば、問題ないでしょうね。
自動車修理工場を建てたい場合
これについては、都市計画法34条1号を解説した以下の記事を読めば解決します。
タイトルは店舗についての話ですが、実は自動車修理工場についても理解できます。
市街化調整区域で店舗を建てたい!そんな思いのある方に向けた記事です。自動車修理工場は地域住民の方に必要不可欠なものとして、市街化調整区域でもより広い範囲で建てられることになります。
注意点としては、自動車ディーラーとか中古車販売を目的には建築できません。
まとめ
今回は”市街化調整区域に工場は建てられるの?不動産屋がほとんど知られていないレア知識をお届けします。”というテーマで解説しました。
どこでも建てられるわけではないものの、市街化調整区域にだって立地が可能な工場もあるわけなんですね。
気になる場合は、市役所のまちづくり課や都市計画課に出向いて調べてみましょう。
本記事では身近なところに、なぜ工場が建てられているかの一端をお伝えしました。